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下る途中に、カーレンベルクの目印となる塔と右・北側の展望所のある建物(左)。ドナウ川の向こうの白い円筒形ビルはガス会社で、その右に盲端のアルテ・ドナウが見え、手前は公園。上に展望レストランがあるドナウタワーと、右奥は国連関係のビル群(中)。ワイン畑と小屋のコラボから印象派の絵をイメージした風景(右)

続 ウィーンを愛して(7)ハイリゲンシュタット界隈

ハイリゲンシュタット駅前から路線バス 38Aに乗車。カーレンベルクへの山道(左)。南側に開いているカーレンベルクからの眺望(中)。カーレンベルクからハイリゲンシュタットへの下りはワイン畑沿いの散策路(右)

 クラシック音楽ファンにとって、ウィーンは聖地と言えるでしょう。少なくとも小生はそのような思いを抱いています。多々の作曲家を思い描きますが、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、マーラー、ヨハン・シュトラウス、レハールなど・・・。 
 ウィーンにおけるベートーヴェンの住居は、モーツァルトと異なり、少なからず残っており、多いのはハイリゲンシュタットHeiligenstadtです。その北側は丘陵地で、地名からは500m未満の山で、市の北端部です。山に上がる路線バスを含め、市内交通機関乗り放題券の適用範囲です。行きましょう!
 地下鉄4号線に乗ります。地下鉄1号線と交わる駅かつトラムの基幹駅で、ドナウ運河クルーズ船の桟橋もあるシュヴェーデンプラッツSchwedenplatzを過ぎると、地下から地上に出て走行し、終点のハイリゲンシュタット駅近くまでは北方向へドナウ運河沿いで、車窓から運河を眺め、或いは、カラフルな色調と独特の形状のごみ焼却場の塔を仰ぎ見ます。後者は、阪神高速道湾岸線から見える塔を思い出します。大阪市観光局の解説「遊園地と間違えてしまいそうな建物は、環境保護建築でも有名なウィーンの芸術家フンデルトヴァッサー氏のデザインで、 建物も楽しむことができます」の通りです。
 ハイリゲンシュタットに着いたら、まずウィーン市内を展望できる場所に行ってみましょう。駅前にあるバスターミナルで、先頭に路線番号[38A]と[Kahlenberg]や[Leopoldsberg]が表示されているバスに乗車します。途中までの[Wagenwiese]行もあるので留意します。
 バス[38A]は、駅前を発つと左折し、路面電車D線が南北に走る四つ角に出た後、間もなく緩やかな登り道グリンツィンガー通りGrinzinger Straßeを西方向に走り、人通りが多くなるゾーンに至ります。そこは新種ワインと郷土料理を出す店、ホイリゲHeurigerが並ぶグリンツィングGrinzingですが、この一帯を過ぎると森の中の走行で、急坂となり、ヘアピンを含め、山道をどんどん登ります。
 カーブでも、乗客にお構いなしと思える高速で曲がります。座っていても上体はかなりの加速度を感じ、揺れます。途中、石畳の道路では、上下のガタガタ振動を含めて、日本のバス運行と比べて乱暴に感じます。テーマパークのアトラクション並です!
 乗車25分で目的地に到着します。
 ハイリゲンシュタットまで広がるワイン畑を眼下に、ウィーン市街を眺め、かつ、水平線までの遠望が出来る展望テラスが著名で、市民も憩う観光スポットがカーレンベルクKahlenberg(地名のベルクbergは山)です。484mある界隈最高地点の至近地に大きな駐車場、ホテル、レストラン、カフェ、お土産店や小さい教会などがあります。

下る途中に、カーレンベルクの目印となる塔と右・北側の展望所のある建物(左)。ドナウ川の向こうの白い円筒形ビルはガス会社で、その右に盲端のアルテ・ドナウが見え、手前は公園。上に展望レストランがあるドナウタワーと、右奥は国連関係のビル群(中)。ワイン畑と小屋のコラボから印象派の絵をイメージした風景(右)

 エ? バスの運行本数ですか? 15分毎、土日は10分毎に[Kahlenberg]行が出ています。
 ウィーン市の[Wiener Linien]を見ると地下鉄U-Bahnなど、公共交通機関情報が展開します。路線バスは、約100系統あり、[38A]を選択すると曜日別、時刻表を知ることが出来ます。
 ネット情報が得られるがゆえに、安心・安全かつ効率性の良い自由旅行が、安心して出来ます。
 カーレンベルクからの展望は伸びやかですが、ウィーン市街が南側にあるので常時逆光になります。これが残念で、かつ、概して吹き上がる風が強いです。この界隈は散策路が縦横に巡らされています。
 エ? 復路は降りる? ・・・良いですよ。カーレンベルガー通りKahlenberger Straßeの案内板を確認し、降ります。木立に包まれた散策路を降りると、ワイン畑の中の散策路を、景色を眺めながらのミニハイキングです。天候にも恵まれているし、ベートーヴェンの小路Beethovengangをめざして歩きます。高級住宅街に至ったら、間もなく小川と交差し、ベートーヴェンの小路の西端に至ります。
 ベートーヴェンの住居跡がホイリゲになっている店に立ち寄りましょう!
 ベートーヴェン作曲の交響曲第3番は“英雄EROICA”として名高いのですが、英雄通りと略することが出来る通りEroicagasseが、東西方向のベートーヴェンの小路と交差しています。交差地から南に歩くとわずかの高低差がありますが、550m程でココに到着します。

ベートーヴェンの住居だった建物がホイリゲで、記念プレートは正面右側壁に(左)。ブドウの木・枝が巡らされている雰囲気の良い室外席と注文を聞く彼女(中)。サラダ、スープとワインを前にして店内での自画像(右)

 マイヤー・アム・プファールプラッツMayer am Pfarrplatzが目的のホイリゲです。プファール広場にあるマイヤーさんの店と言った名称ですよね。左右対称形の建物の中央にホイリゲ入口があります。
 調べたら、wien.info/ に「ベートーヴェンが1817年の一時期、この趣のある建物に住んで仕事(つまり作曲)をした」と解説してありました。入口に立つと、右背面に、ここで行き止まりとなる通りがあり、有名なベートーヴェンの“遺書の家”があります。
 ハイリゲンシュタットには、4軒のベートーヴェンの住居が残っているようです。各々にウィーン市が指定している白黒の旗飾りとプレートに「BEETHOVEN-HAUS」が示されていることでしょう。
 中に入ります。中庭に屋外席があり、左右に室内席もあります。幸い、空いているのでブドウの樹・枝が巡らされている屋外席に座りましょう。メニューを確認し、まずは、新酒の白ワインを!自身は、朝食を十二分に摂っているので、スープとサラダ程度にします。合図に応じて来てくれた彼女に注文します。ええ、ワインの料金は水並に安価です。ウィーンは、ホテルでは水道水が飲めますが、カフェなどでは有料です。注文以前に美味しい水やお茶を無料で提供する日本の常識が全くの例外ですよね。
 再々ですが、ハイリゲンシュタットと言えばベートーヴェンと交響曲第6番《田園》を想う小生です。当地への移動は地下鉄4号線が最短時間ですが、中央駅界隈に南の起点があり、ハイリゲンシュタット界隈に北端駅がある路面電車D線の利用は、若干時間を要しますが、おススメです。左右に見所が続くリング通りを時計回りに進み、右手に日本大使館も見て半周する車窓を楽しみながらのコースです。地下鉄4号線での往復ではなく、時間を勘案して、往路か復路にトラムD線での移動を推奨します。
 トラムD線の北端駅はNußdorf Beethovengangで、ハイリゲンシュタットの北隣のヌドルフ地区とベートーヴェンの小路が合わさった駅名です。トラムは全て先頭車のみに運転台があり、よって、端にある駅にはループ状の方向転換をするループ線が設けられています。

トラムD線の北端駅はNußdorf Beethovengang (左)。駅から西に歩くとベートーヴェンが散策した小川添いの散策路ベートーヴェンの小路Beethovengang (左中)。駅から約300mでエロイカ通りとの交差点(中)。小路沿いは今では原生林転じて高級住宅街(右中)。小路の西端に胸像が建つ息抜き場所Beethovenruhe (右)

 トラムD線の北端駅で下車したら、トラムが進行してきた方向、つまり、西側に向けて歩を進めると直ぐにベートーヴェンの小路になります。緑に包まれ、小川添いに西へと続く小路を歩きましょう。
 間もなく、そう300mほど歩くと、車道との交差点になります。交差点で歩みを止めると、看板に気づきます。看板は、東西方向に[Beethovengang]、南北方向が[Eroicagasse]とあります。ベートーヴェンファンには見逃せない撮影ポイントです。小川添いをさらに西へと歩きます。木々に包まれ、右手・北側には一目で高級と分かる住宅が並びます。植栽、花々も目にしつつ、環境に浸ります。
 ベートーヴェンの交響曲第6番《田園》の第二楽章「小川のほとりの情景」のメロディを思い浮かべ、或いは、口ずさみながらの散策・・・。とは言え、小川は護岸工事がされており、自然河川であった当時の雰囲気とは異なります。が、幸い、小橋を渡り住宅街の前の舗装道から外れて、左手・南側に移動すると、所々にベンチが置かれた未舗装の遊歩道になっており、樹木に包まれた静寂な環境の中で、小鳥の囀りや、耳を傾けると場所によってはせせらぎの音を確認しつつ、ベートーヴェンが散策した気分を体感できます。しかし、ベートーヴェンは《田園》を作曲していた頃は、難聴が進んで、そうした音を実際に聴くことができなかった。にもかかわらず、名曲を次々と作曲していた・・・。
 やがて、空間が開け、子ども用の遊具もあるベートーヴェン公園Beethovenparkに至ります。
 少し先に、一目で分かるベートーヴェンの胸像を目にします。Beethovenruheであり、ドイツ語のruheはquietの意味合いゆえ、つまり、ベートーヴェンが歩みを止めて、佇んで、ないし、座して平穏なひと時を得た場所に胸像が建てられたのでしょうか・・・。ウィーン単独の際、夜はオペラや演奏会に出かける小生ですが、アナタたちを伴ってとあれば、夜のホイリゲも企画しましょう。
 Beethovenruheからカーレンベルカー通りを約800m南の方に歩くとめざすホイリゲに到着します。
 訪れた際、WERNER WELSERには空席がありました。Wien.infoには「新しい魅力を備えた古いワイン農家。コクのある ワインとおいしい郷土料理。自家製フルーツ・シュトゥルーデルは 逸品。伝統的なホイリゲ音楽も楽しめます」と解説してあります。自家製の新種白ワインはタンクからピッチャーに入れて持ってきてくれます。これをガラス製のビアグラスを思わせるジョッキに入れて飲みます。料理は、店内のカウンターで目にしながら、注文し、支払いを済ませて、自席に運ぶビュッフェスタイルが可能です。席に誰かが座して、交代で、お腹の具合を勘案し、料理を持ち帰ります。

WERNER WELSER の入口(左)。演奏が始まり、改めて乾杯(中)。雰囲気に浸って歌い、看板娘とも(右)。

 生演奏は、曜日、時間やホイリゲによっても、契約で内容が異なりましょう。私事、ヴァイオリン、アコーデオンで賑やかに・・・と期待していたのですが、枯れた老夫婦が静かに演奏をし、盛り上がりにかけました。が、われわれ三人は大いに盛り上がりました。
 彼女たちの後日談で、帰路のバス38Aや地下鉄4号線車内でも賑やかに過ごしていたそうです・・・?!
 次回は、是非、アナタとも・・・! ハイ、夜の演奏会等を犠牲にしてでも臨みましょう!
 え? WERNER WELSERの場所ですか? Google地図で即出てきます。ルートにBeethovenruheないしBeethovenparkを入れて、徒歩ルートを確認することも出来るので、実にありがたいのです。
 最後に、とっておきのビューポイントへご案内しましょう。
 ハイリゲンシュタット駅前で、30分毎に限られる[Leopoldsberg]行38Aにタイミング良く乗れたら、終点のレオポルツベルクLeopoldsberg 425mへ、順光になる午後遅め・夕刻に行きましょう。
 低い山稜の東端に位置する展望所からは、カーレンベルクとは異なる景観に出会えます。
 現在、使用されていない古い教会が東南端にあり、ここを一周する散策路があり、展望所が3か所あります。東方向の展望、南方向の展望、そして、カーレンベルクを望む西側の展望が可能です。駐車場から至近地にあるので、ゆっくり展望しても30分以内で収まります。乗ってきたバスがレオポルツベルクに着くと30分停車しています。よって、乗ってきたバスに再び乗車します。
 レオポルツベルクからは、東北東方向にドナウ本流(D)から分かれる新ドナウ川Neue Donau(N)の起始部が見えます。大河の上流域に相当するウィーン市内のドナウ川Donau(D)ですが、かつては蛇行し、春先の雪解け期には氾濫に悩まされてきた歴史がある由。城塞を廃してリング通りを建設した皇帝フランツ・ヨーゼフI世が1870-75年に直線化工事を推進したことで、今のドナウに至っているようです。ネット地図で見ると、今でも大きく蛇行していた痕跡が見取れます。毎年元旦にウィーン・フィルが本拠地楽友協会の大ホール“黄金のホール”でアンコールとして定番で演奏する[美しく青きドナウ]はヨハン・シュトラウスII世が1867年に作曲しています。現在では美しく青きドナウと言える川の水ではないのですが、自然護岸の当時は言葉通りだったのでしょうネ。

レオポルツベルクからの景観:東方向ドナウ川Donau(D)、新ドナウNeue Donau(N)の起始部(左)。南東方向はD、ドナウ島、N、ドナウ旧流Alte Donau(A)とWasserpark(W)、ドナウタワー(T)の奥・南は国連地帯(右)

 Nは近年の建設で、起始部、中間部と本流との合流部近くの3か所に堰が設けられています。Dと比べ、Nの水位は通常期は低く、増水期に氾濫を防ぐ機能を発揮することになります。
 DとNの間はドナウインゼルDonauinselつまりドナウ島で、全長21.1kmとあり、公園、サイクリングロード、ボート乗り場や各種イベントで親しまれています。
 ドナウ旧流Alte Donau(A)は、水質を保つための取水口はありましょうが、一見すると盲端になっています。Wien.info.には「美しい庭園、日光浴用の芝生、テラスのあるレストラン、遊歩道やサイクリングコースなどが沿岸に並ぶドナウ旧流は、水泳、ヨット、ボート、サーフィンなどのパラダイス」と解説してあります。上流端にはWasserpark(W:邦訳は見出せていないので親水公園ないし水辺公園)があり、美しく整備されています。静寂なこの公園の散策はお勧めです。水辺にステキなカフェ・レストランもありますから足休めを兼ねてのんびりできます。
 レオポルツベルクの麓近くにあるドナウ運河の起始部は見えませんが、堰と観光船のために3連の水門が設けられ、旧市街地を水害から防ぐ構造です。
 本流のウィーン市内下流域にも大きな堰と大型クルーズ船を通す2連の水門もあります。
 運河と本流を周回する観光船の起点は、冒頭で紹介したシュヴェーデンプラッツにあります。運河を下り、反時計回りに、本流の巨大な水門を通過し、上流域に進み、運河の起始部の水門を通過し、下る一周約3時間余ののんびりとしたクルーズもオススメです。
 運河を航行するクルーズでは、隣国スロバキアSlovakiaの首都とウィーンを結ぶ、Twin City Linerで、ブラチスラバBratislavaへの日帰り旅もオススメです。そう、往路は鉄道で、復路を高速船で・・・。
 ウィーンの魅力は尽きません。アナタもスロバキアの日帰り旅行を・・・ いかがですか?

 

付:Slovakia、Bratislavaは「ヴァ」と読めるが、外務省が「バ」を用いており、この表記とした。

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