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ウィーンを愛して(4)教会ミサ~生活に根付いた音楽

 教会ミサの初体験は、1990年10月29日から現地9泊・4か国を巡った第1回鳥取市勤労青年海外研修団の一員として、パリを訪れた機会だった。11月4日、パリ・ノートルダム大聖堂に入ると、厳かな雰囲気の中で、日曜ミサが行われていた。歌で牧師さんが導き、信者が呼応する中に、オルガンの響きが混じる。私事、それまで、オルガンの響きに共感する機会に恵まれることがなかった。が、石造りのノートルダム大聖堂に響くパイプオルガン重低音・重厚な響きは、体の中に染み入るがごとくで、頭で考えて聞くといった様とは、全く異質であり、魅せられた体験となった。ミサの言葉・詩は全く分からないが、メロディーは素直であり、邪魔にならない程度にハミングし、ハーモニーに参画した記憶は今も新鮮である。
 それ以降、西欧に出かけると、機会があれば、教会のミサを心して、いくつか体験したが、ノートルダム大聖堂類似の体験は果たせていなかった。

1.王宮礼拝堂の日曜ミサ

王宮の入り口〔スイス門〕(上)

王宮の入り口〔スイス門〕をくぐると教会の鐘の音が響く中(中)。礼拝堂に入る階段から続く観光客の列(下)。両手を挙げているのが小生

2.アウグスティーナ教会の日曜ミサ

王宮敷地にあるアウグスティーナ教会の天井の高い大空間、祭壇後方上段にあるパイプオルガン。外壁にある精巧なレリーフ

3.カプチーナ教会

小さなカプチーナ教会(中左)の質素な内部(上)

1.王宮礼拝堂の日曜ミサ
 ウィーンで礼拝といえば、王宮礼拝堂の日曜ミサが著名であるが、その理由は、ウィーン少年合唱団が本務として歌うことと、日本のガイドブックに記載があるが所以であるが、“無料で体験できる”ことにあろう。自身、案内書には、ミサの様子は垣間見る程度だが、階段を上がって・・・とあったことで、ある期待をした。さらに、“お金を支払い座席に座るとウィーン少年合唱団は見れない、彼らは上の方で歌っているから”・“ミサなので静かに”といった記載もあった。自身の願いは、ミサを見ることよりも教会音楽を聴くことにある。この点においては、上の方で、教会内の響きを含めて聴ける期待があった。さらに、同HPには演奏曲が紹介してあるのを知り、かつ、当日はモーツアルトの小ミサ曲(ロ長調 K.275)であり、本作の事前研修もし、期待感が高まっていた。
 ガイドブックのコメント記載に従い、約30分前に王宮礼拝堂入り口の列にならんだが、何と、圧倒的に日本人が多かった。それでも天候に恵まれ、庭師が中庭で働く様子、教会の鐘の響きなど、心地良い雰囲気の中で、写真を撮るなどして待つことが出来た。われわれに次いで列に並んだのがF氏夫妻で、退職記念にウィーン、プラハなど4都市を2週間かけて巡るとのことだった。F氏は我らと同じ出生年であり、待つ間、話が弾んだ。2週間をうらやましがる小生、われわれがウィーンのみに連泊するのを是とするF氏夫人。「ウィーンフィルの定期演奏会」や「ムジークフェラインで200周年記念演奏会」を聴くことを自慢げに話すF氏と、同じ体験のわれわれ・・・。
 やがて、有料の観光客が入り、続いて、無料・立見席組が教会内部に案内された。無料組の人数の多さから、ガイドブックにあった通り、教会前室で、モニター画面を見て、音楽を漏れ聞く程度の人たちも想定された。
 さて、期待して臨んだウィーン少年合唱団が出演する王宮礼拝堂の日曜ミサであるが、無分別な観光客が教会の上の方でノイズを出していた弊害なのであろうが、残念ながら、上階への階段は一般人が入れない管理体制になっていた。よって、礼拝堂後壁面の4列程度の立ち見体験となったが、音響が劣り、残念至極だった。
 ウィーン再訪の機会に恵まれた場合、同ミサを体験することはまずなかろうし、他者にも勧めない程度の音楽体験であった。「行ってみたい」・「雰囲気に浸ってみたい」・「ミサ終了後、中庭に出るらしい少年たちと写真を撮りたい」と願う誰かを伴う場合は別ですが・・・。


2.アウグスティーナ教会の日曜ミサ
 王宮礼拝堂のガッカリ音楽体験の後、シシィこと、ミュージカルでも御馴染みのエリザベートなどに係る王宮博物館を訪れた。その後、トラムでハイリゲンシュタット方面に移動すべく、ウィーン国立歌劇場方向に歩んだ。アウグスティーナ教会の長軸に相当する側壁に沿う歩道を歩いていると、お店から流れるウィンナーワルツの音に続いて、オルガンの響きを感じた。オルガンの響きに注目し、音源を探ると、どうやら石造りの教会内部からの音とみて、同志に声をかけると、即答的に「体験したい」との意思表示があった。
 同志には、冒頭に記した小生の教会ミサでのオルガンの響きについて、感動を話してあったこともあったろうし、自身、機会があればと心していたので、迷いはなかった。11時過ぎだった。ヨーゼフ広場(Josefsplatz)に面した王宮教会の入り口を見て、中に入った。後方壁面に立っていた人たち(信者・観光客?)がいた。教会の後(入口)上方にパイプオルガンがあるのが常であり、その響きを体感したく、小生は静かに進んだ。空いている椅子席を見出して、同志を手招きし、別々に座した。
 1990年に感動したパイプオルガンの響きを追体験しえた。いや、パリ・ノートルダム大聖堂以上に、教会専属室内オーケストラの演奏、ソリストによる歌唱と合唱が充実しており、稀有な音楽体験に深く感動した。ミサなので、常時、演奏があるわけではなく、祭礼の間に演奏される。祭礼の節目には、参列者は起立し、また座すが、当然、小生(・高齢女性の間に座した同志)も従った。ミサ終了前の(定番的)献金に参加し、隣人との握手(・自身はハグには至らない)も・・・。信者が去るのを待ち、教会空間を確認した。われわれ以外にも写真を撮るガイジンさんたちが居たが、それは立派な空間であった。気づくと、12時半近くで、予定外に約1時間半を費やしたが、満足感が大きかった。終了後に、教会入り口にあったパンフレットの情報で、この日2012年5月20日の日曜ミサで演奏されたのはハイドンのネルソン・ミサ(Nelsonmesse Missa)」が主体だったと分かった。ネルソンはロンドンで馴染みのトラファルガー広場のモニュメントに立つ同提督で、海戦での勝利にハイドンが呼応し、ファンファーレを入れたことでの愛称(ハイドンによる原題は「Missa in angustiis 苦難のときのミサ」)であるとも分かり、親しみを感じた。なお、本教会は専属のオーケストラと合唱団・ソリスト(Chor & Orchester von St. Augustin)を有しており、多くのCDを作成し、販売していること(www.augustinerkirche.at/)も分かった。入り口の売店で本作が入ったCDを記念に購入した。
 ウィーンを再訪する機会があれば、日曜日11時からのミサは逃せない。


3.カプチーナ教会
 
Wien Tourismus日本語頁には、カプチーナ教会の概要が「皇帝墓所はカプツィーナ教会の地下にあり、オーストリアの統治者であったハプスブルク家の人々の棺が納められています」とある。カプチーナ納骨堂との邦訳もある。
 王家の人々は、女帝マリア・テレジア、皇妃エリザベートなど、遺体がカプチーナ教会に眠り、心臓がアウグスティーナ教会(前項)に、心臓以外の内臓がウィーン旧市街の象徴・ランドマークのシュテファン大聖堂に納められている。ロンドンのウェストミンスター寺院でも歴史上の著名人が地下に眠り、信者のみならず観光客が、いわば墓の上(地上階)を闊歩していることになる。
 このことは、近年の臓器移植において、遺体について、日本人の抱く感性・感情と西欧人の違いを認識する機会になる。つまり、遺体を解剖し、心臓と他の内臓を分け、各々を別の教会に安置している事実と、日本では土葬もあったが、火葬し、各々骨になる埋葬文化の違いが大きく、臓器移植ドナーにも影響する。
 地下の納骨堂は広いが、地上の教会は小さく、内部は質素である。中に入ると、10人に満たない信者の方々が、後方片隅で、共に祈りをしておられた。女性の一人が誘導し歌い、呼応し参列者が呼応し歌う静かな夕方のミサで、オルガン等の楽器は皆無であった。座して、しばし雰囲気を体感した。
 カプチーナ教会を訪れた際は、時間帯が遅く、地下の納骨堂には入れなかった。今回のウィーン滞在中、同志の誘いもなかったことから、(小生は1994年10月に体験済であり、)今回は機会を逸した。しかし、自身、約18年の間に、西欧・オーストリアの歴史の学びを重ね、かつ、ミュージカル【エリザベート】が出来たことなどもあり、機会があれば再訪してみたい。


4.音楽が日々の暮らしに音楽がある文化
ペーター教会のHPにある教会内部を知ることが出来る“メガ・パノラマ・フォト”は素晴らしい。ズームをどんどんかけて見ることが出来るが、その能力(解像度・ズームの度合い)はピカ一である。

 関心のある方は、ペーター教会のHPでズームをかけて、ハプスブルク家の紋章を捜してみてください。同HPで、15時からオルガンコンサートがあるとの情報を得て、時間調整しつつ到着した。同教会はシュテファン大聖堂に近い歩行者天国のグラーベン通り、ペスト記念柱の至近、北側奥まった場所にあり、分かり易い。

ペーター教会 (中右)のオルガン(下)。右下はHPで得た王家の紋章[部分]

 大バッハなどの曲であったが、残念ながら30分ほどのオルガン演奏は、オルガンが古くなっていることもあってか、雑念が入り、感動するに至らなかった。

 教会音楽を土台として、ウィーン市民に愛されていると実感できるモーツアルト、敬愛されているベートーベン、親しまれているハイドンなどの古典派音楽、そしてまた、ブラームス、マーラーやウィンナー・ワルツのシュトラウスやレハール、さらには、シェーンベルクなど、実に多くの音楽家たちの音楽が、ウィーンの暮らしにあることを実感できた日々でした。国立歌劇場からシュテファン大聖堂を結ぶ歩行者天国のケルントナー通りでピアノ、チェロなどを演奏しているこれからの若い人たちや、教会ミサや国立歌劇場・ムジークフェラインなのでの世界一流の演奏など、多種多様な音楽体験が出来たことに感謝至極!

(平成25年2月3日記)

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