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12-1本文
12-1研修内容

ウィーンを愛して(1)気分は学生・クラシック音楽三昧

ウィーン国立歌劇場の内部。日本にはない馬蹄形の客席構造

“天井桟敷”後列は立見席(→)。白■は11EURで観劇したワーグナー【さまよえるオランダ人】の自席(2列目)。オーケストラピットには、首席チェロ奏者で、来日も多いフランツ・バルトロメイさん(拡大)が定番的に自主練習中(写真中)。真下にチェンバロがあり、上方の自席に良く届いた。

1870年築のムジークフェライン(楽友協会)の全景

ソフトとしての楽友協会はベートーベンが生存していた1812年に結成され、今回、200年記念演奏会を体験し得た。3階席に相当する自席(最前列)から見た内部全景(写真中)。団員が揃った開演前(写真下)。バルトロメイさんと、鳥取に馴染みのあるビオラの首席ハインリヒ・コルさん、クラリネットのヨハン・ヒントラーさん(拡大)も出演。

 クラシック音楽に親しんだのは、大学マンドリンクラブの先輩(導師)がベートーベンのバイオリン協奏曲を薦めてくれた1970年秋で、以来40年余になる。雑学的に、かつ、深みに乏しいまま、濫読的に聴いていた。バロックから古典派、ロマン派まで拡がったが、声楽に馴染めず、オペラは原語が難解であり、避けていた。
 1981年、中病に赴任後、厚生省・厚労省や文科省の研究班等に関わるようになり、上京を繰り返していたが、会議が終わってから夜行(出雲号)でのとんぼ返りで病院に戻るのが常だった。妻の進言があり、都内に泊まり、翌朝の一便のANAで帰鳥し、病院での診療を開始するようになって、サントリーホールの会員にもなり、オーチャードホール、芸術劇場など、各種の公演を視聴するようになり、オペラも体験するようになった。
 転機は2005年秋で、佐渡 裕 監督による兵庫芸術文化センター開館後、大・小ホールで、同管弦楽団定期演奏会等・各種室内演奏会を聴き、同監督プロデュースオペラを体験してきたことと、2010年秋に機会に恵まれて自称〔Grand-Pa Hall“MIRO”〕を得て、演奏会場並みの音響でオペラ等の研修を重ねたことにある。
 ベートーベンの弦楽四重奏、ピアノソナタ等は、以前は頭で考える(~ストレスを感じる)がごとくの聞き方だったが、いつしか、心身に染み入るように、初体験の楽曲でも穏やかに聴けるようになっている。そうした経緯や、洋画は字幕で見ているではないかとの気づきもあり、いつしかオペラに傾倒していった。といっても、今尚「小学校レベルかなぁ」といった自己評価だが・・・。
 還暦を過ぎた身で、業者に委ねず、生涯研修の一環として、全て自立企画・単独での2011年5月のロンドンはミュージカル主体で、クラシックはロイヤルフェスティバルホールでのオーケストラ3企画に留まり、西欧ではオペラは未体験だった。2012年、ドイツ語圏、音楽の都ウィーンに挑戦した。下調べを重ね、ウィーン国立歌劇場、ムジークフェライン、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団、コンツェルトハウス等に無料ネット会員登録をした。

 

 翻って、高校教師を退職した在阪のクラシック音楽の導師と、約40年ぶりに飲食を共にする機会があった。40年の空白を感じさせない関係性を垣間見た妻が、小生の呟きに「行くんじゃない。誘ってみたら!」と。ウィーン行を提案すると、導師は即答的な返答で、(西欧初体験・海外2回目という導師転じて)同志との弥次喜多珍道中が決定した。5月の連休に当直を3枠(~5月計6枠、東部医師会急患診療所当番3枠)こなし、国立歌劇場の演目を見て、日程を決めた。
 ウィーンフィルは、ウィーン国立歌劇場管弦楽団の精鋭がオーケストラピットから出て、ステージ上で自主演奏する際の名称~今回、ウィーンフィルを計6回聴いた。国立歌劇場3、ムジークフェライン大ホール“黄金のホール”2、国立歌劇場小ホール(グスタフ・マーラーにちなんだ“マーラーホール”)で、全て業者に委ねず、ネット購入で、超破格の安値~気分は学生。業者に委ねると、ウィーンでのウィーンフィル演奏会は席種
を問わず\34,000。今回の9公演合計で331 EUR ~ 学生的計算をすると、チケットを自立購入したことで、往復の旅費(フィンエアー正規格安往復運賃 \58,200・ 燃油諸税 \59,680)とホテル代(4つ☆・朝食付)\62,736が浮いた。

 

 国立歌劇場は“天井桟敷”からの体験と心していたが、3演目とも上段ロジェ(ボックス席)の2列目が提供された。下手8番、上手中央、上手2番とバランスの良い配席に感謝感激!
現代最高のメゾソプラノの評が定着しているエリーナ・ガランチャが【皇帝ティートの慈悲】に(実質主役である)セスト役で出演するとのウィーン国立歌劇場HP情報を得て、期待が高まった。結果、ガランチャの声は、強いて例えれば、純音の音叉のごとくの濁りのない声で、ピアノの声量でも会場にスーッと心地良く通り、一方、フォルテは余力を感じさせる安定した持続力~驚嘆した!
 モーツアルトが死の年に書いた【皇帝ティートの誘拐】は、約200年の間、評価が低かったが、2003年のザルツブルク音楽祭で、ニコラウス・アーノンクールが取り上げ、指揮をしたことを端緒として、評価が高まり、上演が繰り返されている。この際、エリーナ・ガランチャが登用され、アンニのオ役で実質世界デビューしている。ガランチャは2010年のメトロポリタンで、ビゼーの【カルメン】で主演し、絶賛されている。
 この映像をNHKが放映しているが、とにかく素晴らしい! 自身の評価でも最高だが、世の評価も歴代カルメンの最高峰に位置づけるほどである。同年のベルリンフィルのジルヴェスター・コンサートにも出演し、メインは【カルメン】の著名なアリアで、“ガランチャ・ナイト”と自称している。
 自身、傾倒していたガランチャがウィーンで体験できた“事件”は、わが音楽体験の最高峰となった。
奇跡的との自己評をしているのが、13 EURで付与された上段ロジェで、上手2列目ゆえ、座していてはオーケストラピット、舞台が見えないが、それは先刻承知で、重要場面等は立って、舞台下手半分を覗き込んだ。弦の音、真下のチェンバロの音など、スーッと伸びて届く。これは“土間”と称せられる“舞台を見る”・“ドレスを見せる” 高額席では体験し得ない。
 2013年5月の連休後、何と、ガランチャが【カルメン】で主演する。相手役のホセはメトロポリタン同様、現在最高のテノールの一人で、ホセを歌いこんでいるロベルト・アラーニャとのHP情報を得た。嗚呼・・・、来年もウィーン研修の期待が高まる。尽きない自主研修人生!


 長くなったが、やはり初体験のムジークフェラインについて一言。ウィーンフィルの定期演奏会は、国立歌劇場での演奏が本務であるがゆえに、土日の昼間(開演は土曜日15:30・日曜日11:00)にありる。完売になっている定期会員になるためには13年待ちと、かつ、若干のチケットの戻りがあるので、1週間前に欲する人は連絡をとウィーンフィルのHPにある。定期演奏会を体験すべく、事務局宛に“還暦人初体験”の事情を含めてメールし、幸い音が聴き易いギャラリー(正面3階席)を得た。音響が世界一とされるムジークフェラインでのウィーンフィルの音、それもモーツアルト(一曲目が交響曲第39番の冒頭)の弦などの響きを体感して、大納得!
 山の景色では大学浪人時代の秋に大山に初登山(下宝珠越)した際に、尾根道から開けた三鈷峰の紅葉を思い出す。近年、“音の風景”と称する記憶が残っていることに気づくようになった。
 ウィーンでの今回、ガランチャの抜きん出た声、ムジークフェラインでのウィーンフィルの弦の音、コンツェルトハウスでのゲルギエフ指揮ロンドン交響楽団のストラヴィンスキー〔春の祭典〕、アウグスティーナ教会の日曜ミサでの専属室内オケ・合唱団・ソリストとオルガンの響きなど、多くの“音の風景”が残った。

​※ 本内容は、鳥取県東部医師会報 No.401 p.67-70, 2012 9月号 掲載分の原稿です。

 

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